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硬膜外鎮痛は分娩時間をわずかに長くしますが,帝王切開となる危険性を増やすことはありません

妊婦さんは「硬膜外麻酔をすると分娩時間が長くならないかしら?」「鉗子分娩になること増えないかしら?」というような疑問よくますこれらの質問は単純ですが答はとても複雑です.硬膜外麻酔分娩の過程に及ぼす影響については麻酔科医の集まりでも議論を引き起こしていますし,麻酔科医以外の集まりではさらに大きな議論となっています.この問題については文献でも意見が分かれています.産科医,助産師,分娩にかかわる非医療スタッフ,患者,病院管理者,保険会社,マスコミ,保健行政などが議論に参加しています.証拠がないにもかかわらず,硬膜外麻酔は帝王切開の主要な原因だと非難の声をあげる少数派もいます.

 

いくつかの要因が絡み合い,科学界はこの単純な質問に対する正しい答えを出すことできません.それら要因のいくつかを以下に挙げます.

  • 倫理的問題

大きな要因のひとつは倫理的な問題です.理想的な研究(前向き,二重盲検法出産のために病院にきた妊婦さんを無作為に2グループに分けなければなりません.片方のグループは出産時に硬膜外麻酔を受け,もう片方では硬膜外麻酔を受けません.しかし今日,硬膜外麻酔を求める妊婦の要求拒むことは倫理的ではありません.さらに,お産が難しくなりそうなときには,産科医から硬膜外麻酔を依頼されます.たとえ始めに妊婦さんを無作為に2のグループに分けたとしても,点滴による痛み止めが不十分なために分娩の途中で点滴から硬膜外グループに移行することがあります.硬膜外鎮痛グループに移行したいという要求を研究のため拒否することは倫理できません.

  • 盲検研究を行うことは不可能

理想的には偏りをなくすため,研究において鎮痛法の評価をする人は妊婦さんがどちらの鎮痛を用いたのかを知らずにいるべきです.しかし実際には硬膜外麻酔受けているか否かを,患者産科医,看護師,麻酔科医が知らずにいることは不可能であり,ここに乗り越えられない問題があります.帝王切開に移行するのは最終的には産科医の主観的な臨床判断によるものであり産科医が鎮痛方法を知っていることは研究結果に大きな影響をもたらすかもしれません.産科医や助産師硬膜外鎮痛受けている患者さんを受けてない患者さん同じようには扱わないこともあります.例えば,鉗子分娩は硬膜外麻酔を施行している患者さんでは多く行われますがこの理由のひとつは,硬膜外麻酔中の妊婦さんは鉗子をかけても快適であり,骨盤の筋肉が弛緩して鉗子分娩をしやすいことを産科医が知っているからなのです.

  • 硬膜外麻酔を要求する妊婦さんと要求しない妊婦さんとの特性の違い

硬膜外無痛分娩が分娩経過におよぼす影響は,妊婦さんの特性の違いによってとても複雑になり,また後向き研究(無作為な割り当てではなく,自身の選択で選んだ麻酔法を受けた妊婦さんの転帰を調べた研究)が無意味なものになります.硬膜外麻酔を求める妊婦さんとそうでない妊婦さんとでは,そもそも違いがあります.

分娩時に硬膜外麻酔を選択する妊婦さんはしばしば初産婦(第1子)であ,分娩の早い時期から病院を訪れ赤ちゃんの位置が高く,赤ちゃんが大きく,分娩の経過がゆっくりです.これらすべての要因硬膜外麻酔を受けていても受けていなくても分娩時間を長くします

  • 研究における統計学的検出

統計学的検出力の不足した,つまり各グループの妊婦数が研究結果を真に正当化するには十分でない研究あります

 

 

いくつかの限界があるためどの研究結果もうのみにせずに見る必要があります.しかし,十分な統計学的検出力を持った真の二重盲検研究がないにもかかわらず,高度な統計学的手法(メタアナリシス)を用いることでいくつかの結論を導くことができます.

メタアナリシス

統計学的検出力の不足した研究の問題点を克服するため,いくつかの研究のメタアナリシス(いくつかの似た研究を解析し答を見つけること)を行ったところ,次のような結果が示されました.(1)

  • 硬膜外鎮痛の帝王切開への影響5つの無作為研究と他の2つの研究(仮報告1つとヨーロッパの古い研究1つ)を合わせた2400人近くの妊婦における経験から,硬膜外鎮痛麻薬鎮痛のグループを比較し,帝王切開なる危険性にがなかったことが示されました.さらに難産子宮口開大または分娩進行の異常)による帝王切開のみを分析しても産婦(初めて妊娠した女性)のみを分析してもその結果は変わりませんでした.

 

  • 硬膜外鎮痛の分娩時間へ影響:分娩の開始後に硬膜外鎮痛が子宮口開大に及ぼす影響はほとんどないでしょう.硬膜外鎮痛と点滴による麻薬鎮痛と比較した10個の無作為研究から,第1期(訳者注:子宮口が完全に開くまで)の分娩時間は平均42分(8%延長するという結論に至りました.6つの無作為研究のメタアナリシスによれば,硬膜外鎮痛を受けている妊婦さんでは分娩第2期(訳者注:子宮口が完全に開いてから赤ちゃんが生まれるまで)の時間が14だけ長くなりましたつまり硬膜外グループの妊婦さんは麻薬グループと比較して分娩時間1時間長くなっています
  • 硬膜外鎮痛と器械(鉗子)分娩:硬膜外鎮痛と鉗子分娩の関連複雑です.経腟器械分娩の率は硬膜外麻酔により増えるかもしれません器械分娩の適応は産科医や施設により非常に大きく異なります.無作為研究のメタアナリシスでは硬膜外麻酔を受けた妊婦さんでは器械分娩の2倍になりましたが統計上信頼区間が広く,個々の研究によって大きな差があることを示しています.これは産科医の方針や選択がまちまちであることによります.例えば産科医は硬膜外麻酔を受けている妊婦さんには鉗子分娩を行うことが多いでしょうが,理由のひとつは鉗子分娩をしても妊婦さんが快適ことを産科医知っているためです.

 

  • オキシトシンの使用硬膜外麻酔を受けている妊婦さんでは点滴による鎮痛グループと比較してオキシトシンを頻繁に使ます.メタアナリシスによると硬膜外グループでは鎮痛開始後にオキシトシン必要とする頻度2倍近くに達しました
  • 妊婦さんの満足度と生まれてきた赤ちゃんの状態:硬膜外による無痛分娩を提供したときのほうが点滴による無痛分娩よりも,患者さんの満足度や赤ちゃんの状態は良好です.メタアナリシスによれば,麻薬グループでは痛みがひどく,不満が多く,アプガースコア1分・5(訳者注:赤ちゃんが生まれたときの元気のよさを点数化したもの.呼吸や心拍数,筋緊張の程度などから評価する)が低,臍帯血pHが低,そして麻薬による鎮痛を受けたお母さんから生まれた赤ちゃんではナロキソン(訳者注:麻薬の作用を打ち消す薬)の投与が必要なことがよくあります. 

よって最終結論は以下のとおりです

 

質のよい前向き無作為研究により,硬膜外鎮痛は分娩時間を最小限しか延長せず帝王切開となる危険性を増加させないという多くの麻酔科医や産科医の見解が確認された.

 

硬膜外麻酔を受けた患者の分娩時間は延長する.静脈投与法と比較して硬膜外グループは平均して60分,分娩時間が長くなる.しかしお母さんの満足度や生まれてきた赤ちゃん状態は,点滴による鎮痛より硬膜外鎮痛のほうが良好である

  1. 1:硬膜外鎮痛と麻薬による鎮痛を比較した無作為研究

筆頭著者と引用文献

難産による帝王切開率1

P

 

硬膜外群

麻薬群

 

Philipsen

Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 1989; 30:27-33

10/57 (17%)

6/54 (11%)

有意差なし

Thorp

Am J Obstet Gynecol 1993; 169:851-8

8/48 (16.7%)

1/45 (2.2%)

<.05

Ramin2

Obstet Gynecol 1995; 86:783-9

Current Anesth Rep 2000; 2:18-24

43/664 (6%)

37/666 (6%)

有意差なし

Sharma

Anesthesiology 1997; 87:487-94

13/358 (4%)

16/357 (5%)

有意差なし

Bofill

Am J Obstet Gynecol 1997; 177:1465-70

4/49 (4%)

3/51 (3%)

有意差なし

Clark

Am J Obstet Gynecol 1998; 179:1527-33

15/156 (9.6%)

22/162 (13.6%)

有意差なし

Gambling3

Anesthesiology 1998; 89:1336-44

39/616 (6%)

34/607 (6%)

有意差なし

Loughnan

Br J Anaesth 2000; 84:715-9

36/304 (12%)

40/310 (13%)

有意差なし

Howell

Br J Obstet Gynaecol 2001; 108:27-33

13/184 (7%)

17/185 (9%)

有意差なし

Lucas4

Am J Obstet Gynecol. 2001;185:970-5

46/372 (12%)

54/366 (15%)

有意差なし

2:硬膜外鎮痛を行えるようになった前後で帝王切開率を比較した研究

筆頭著者と引用文献

帝王切開率(硬膜外鎮痛率)

P

 

硬膜外使用が少ない時期硬膜外使用が多い時期

 

Bailey

Anaesthesia 1983; 38:282-5

7.1% (0%)

9.3% (27%)

有意差なし

Gribble

Obstet Gynecol 1991; 78: 231-34

9.0% (0%)

8.2% (47%)

有意差なし

Larson

SOAP1 abstracts 1992: 13

27.5% (0%)

22.9% (32%)

有意差なし

Mancuso

SOAP1 abstracts 1993: 13

14.9% (19%)

12.3% (67%)

有意差なし

Johnson

J Fam Pract 1995; 40:244-7

18.4% (21%)

17.2% (71%)

有意差なし

Lyon

Obstet Gynecol 1997; 90: 135-141

11.8% (13%)

10.0% (59%)

有意差なし

Fogel

Anesth Analg 1998; 87:119-23

9.1% (1%)

9.7% (29%)

有意差なし

Yancey

Am J Obstet Gynecol 1999; 180:353-9

19.4% (1%)

19.0% (59%)

有意差なし

Impey

Am J Obstet Gynecol 2000;182:358-63

3.8% (10%)

4.0% (57%)

有意差なし

 

さらに情報が欲しい方は以下の文献をお読みください.

1. Segal S, Birnbach D. Epidurals and cesarean deliveries: A new look to an old problem. Editorial. Anesthesia and Analgesia 2000;94:775.

2. Halpern SH, Leightonm BL, Ohisson A, Barrett JF, Rice A. Effect of epidural vs parenteral opioid analgesia on the progress of labor. JAMA 1996;280;2105.

3. Segal S. Epidrual analgesia and the progress and outcome of labor and delivery. Problems in Anesthesia. 1999;11:324.

4. Thorp JA, Hu DH, Albin RM, et al. The effect of intrapartum epidural analgesia on nulliparous labor: a randomized, controlled, prospective trial. Obstet Gynecol 1993;169:851-8.

5. Ramin SM, Gambling DR, Lucas MJ, Sharma SK et al. Randomized trial of epidural versus intravenous analgesia during labor. Obstet Gynecol 1995;86:783-9.

5. Philipsen T, Jensen NH. Epidural block or parenteral pethidine as analgesic in labor: a randomized study concerning progress in labor and instrumental deliveries. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 1989;30:27-33.

6. Sharma SK, Sidawi JE, Ramin SM, Lucas MJ, Laveno KJ, et al. Cesarean delivery; a randomized trial of epidural versus patient-controlled meperidine analgesia during labor. Anesthesiology 1997;87:487-94.

7. Bofill JA, Vincent RD, Ross EL, et al. Nulliparous active labor, epidural analgesia, and cesarean delivery for dystocia. Am J Obstet Gynecol 1997;177:1465-70.

8. Clarke A. Carr D. Loyd G, Cook V, Spinnato J.  The influence of epidural analgesia on cesarean delivery rates: a randomized, prospective clinical trial. Am J Obstet Gynecol 1998;179:1527-33.

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